ドキュメンタリー『MARUMO』
自然によって生かされていることをわかっている

日本の生活は豊かで快適だ。
発展途上国に行くと、この国の豊かさは異常だと気づく。
世界には約2640万人の難民がいて、飢餓に苦しむ人の数は約7億6800万人もいる。パンデミックによる影響で、その数はさらに増加する見込みだという。自然資本を食い潰し、エントロピー増大の危機に直面している現在、地球は二酸化炭素の増加による温暖化が進み、環境は破壊され、人類はすべての生物を道連れに、確実に滅亡へと向かっている。日本人も今のままのライフスタイルを続けていくことは難しいだろう。
とはいえ少なくとも、いつの時代にも人間はエネルギーを必要としてきた。現代の生活は石油エネルギーなしには成り立たないように思える。しかし、石油がなくても立派に生活していた時代があったはずだ。

炭焼きは戦前、戦中までは根幹産業だった。炭で自動車まで走っていた時代だ。今では国内の木質燃料の生産量は年間約15万トン、うち木炭は1万3千トン。
バイオマス燃料の木質ペレットが注目され、木質燃料全体の生産量は増加傾向にあるが、対して木炭の生産は近年さらに減少している。

ドキュメンタリーの主役となるのは、炭焼き職人の森前栄一さん。
三重県伊勢志摩の海と陸が成すリアス式海岸、その山地に木炭(備長炭)の原木となるウバメガシの群生地がある。この植物は環境のよい場所では他の植物に負けてしまい、あまり生育しない。そのため、他の植物が生えにくい急傾斜や水の少ない山頂付近に生育する。
森前さんは木炭にするのに最適な樹齢二、三十年ぐらいの木を選んで伐採する。ウバメガシは再生能力があり、適齢で伐採すれば切株から芽を出して、また成長していく。しかし高齢化した原木は再生能力が弱ってしまい、その後に伐採されると切り株は育たず、木は枯れてしまう。適度に伐採することで、ウバメガシの力強い再生能力を引き出している。
そうやって長い年月の間、原木は絶えることなく、人と自然は共存してきた。

過疎化した南伊勢町の山間に彼の「マルモ製炭所」はある。ここで、毎日ほとんど休むことなく、森前さんは木炭を作り続けている。木炭はエントロピー理論的にみると、種々の燃料の中でも非常に優れている。炭焼きの過程で二酸化炭素を排出するが、まわりの森林が二酸化炭素を吸収している。

木は酸素を排出し、炭素を蓄えて成長する。その木をまた伐採し、木炭に変える。山が潤えば、海も良くなる。しかし、森前さんが毎日炭を焼くのは環境の為ではない。生活のため、世話になった地域への貢献、技術の継承、自分自身が満足できる最高の備長炭を作るため。
自然の中で生活する人たちは、自然のことをよく知っている。彼らにとってはそこに山があり、花が咲くのは当たり前で、自分が自然によって生かされていることを分かっている。
そんな職人の日常と、過疎化した町の人たち、行政、伐採した木の成長、山の変化、ウバメガシが備長炭になるまでを追いながら、環境とエネルギー問題、歴史、科学的・経済学的な問題や意見をグラフィックや学者のインタビューを交えて説明し、ナレーションは話によって複数の言語を用いて制作する。

自然の循環と、同じサイクルを繰り返し生活する炭焼き職人。だが、同じ日など1日もなく、善くも悪くも日々は少しずつ変化していく。自然も人も死んで活かされ生きる。その変化と時間を記録した作品にできればいいと思っている。

監督/飯島将史

1984年 東京都生まれ。日本映画学校(現日本映画大学)で緒方明監督に師事。卒業後、フリーの助監督として映画・テレビドラマ作品に参加。阪本順治監督の映画作品に多く携わっている。主な参加作品:「トリック劇場版 ラストステージ」(堤幸彦監督)、「人類資金」(阪本順治監督)、「百円の恋」(武正晴監督)、「エルネスト」(阪本順治監督)、「半世界」(阪本順治監督)、「凪待ち」(白石和彌監督)、他多数。

 
 
 
 
 
 
 
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